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最高裁判所第三小法廷 昭和29年(オ)355号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告理由について。

上告理由の要旨は、原判決は、一見、上告人等の言動を具体的、個別的に検討した上で本件解雇を正当とするものの如くであるが、実は、上告人等に具体的、現実的に差し迫つた危険を生ぜしめるような言動があつたわけではなく、本件解雇は、ひつきよう、占領下マ司令部のレツド・パージ政策に則り上告人等が単に共産党員であることのみを理由として行われたものであるから、右解雇は、憲法一四条、労働基準法三条に違反し無効と解すべきである、というにある。

しかし、原審の認定するところによれば、本件解雇は、上告人等が共産党員若しくはその同調者であること自体を理由として行われたものではなく、右解雇は、原判決摘示のような上告人等の具体的言動をもつて、被上告人会社の生産を現実に阻害し若しくはその危険を生ぜしめる行為であるとし、しかも、労働協約の定めにも違反する行為であるとして、これを理由になされたものである、というのである。そして、原審の認定するような本件解雇当時の事情の下では、被上告会社が上告人等の右言動を現実的な企業破壊的活動と目して、これを解雇の理由としたとしても、これをもつて何等具体的根拠に基かない単なる抽象的危虞に基く解雇として強いて非難し得ないものといわねばならない。してみると、右解雇は、もはや、上告人等が共産党員であること若しくは上告人等が単に共産主義を信奉するということ自体を理由として行われたものではないというべきであるから、本件解雇については、憲法一四条、基準法三条違反の問題はおこり得ない。右と同趣旨に出た原判決は正当であり、論旨は、右解雇が具体的現実的根拠を伴わない抽象的な危虞に基く解雇であることを前提とするものであつて、採用の限りでない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 河村又介 裁判官 島 保 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎 裁判官 垂水克己)

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